「仕事でうっかりミスが続く」「雑談についていけず、職場で浮いている気がする」「がんばっているのに、なぜか人と同じようにできない」。そんな悩みから、「自分は発達障害のグレーゾーンなのかもしれない」と考える大人が増えています。
インターネットや本で「グレーゾーン」という言葉を目にして、少しほっとした人もいれば、かえって不安が大きくなった人もいるかもしれません。大切なのは、言葉に自分を当てはめることよりも、いま感じている困りごとに目を向け、必要な支援や工夫につなげていくことです。
この記事では、大人の発達障害グレーゾーンという言葉の意味、発達障害の基本、大人に見られやすい困りごと、仕事や生活での対処法、周りの人の接し方、相談先までをまとめました。なお、この記事は特定の人の状態を判断するものではありません。
大人の発達障害グレーゾーンとは?
「グレーゾーン」という言葉を聞いて、自分も当てはまるのではと気になっている方もいるでしょう。この言葉の位置づけと、どんな状態を指すのか、割合の考え方を整理します。

「グレーゾーン」は診断名ではない
はじめに知っておきたいのは、「発達障害グレーゾーン」は医学的な診断名ではないということです。発達障害者支援法などの法律で定められた用語でもありません。
医療機関で正式に使われる診断名ではなく、発達障害の特性の一部が見られるものの、診断には至らない状態を説明するために、一般的に使われている言葉です。そのため、人によって指している内容や範囲が少しずつ違うことがあります。
どんな状態を指す言葉か
一般的には、次のような状態を指して「グレーゾーン」と呼ぶことが多いようです。
- 発達障害の特性のいくつかが当てはまる気がするが、受診したことはない
- 受診したが、発達障害の診断はつかなかった
- 医師から「特性の傾向はある」と言われたが、はっきりした診断名はついていない
診断がつかないからといって、困りごとが小さいとは限りません。環境や体調によって、うまくやれる時期とつらい時期の差が大きく、「なんとなく生きづらい」と感じ続けている人もいます。逆に、職場や暮らしの環境が自分に合っていると、ほとんど困らずに過ごせることもあります。
グレーゾーンの割合は分かっている?
グレーゾーンは診断名ではないため、大人のうちどのくらいの人が当てはまるのかを示す公的な統計はありません。「自分だけがおかしいのでは」と一人で悩む必要はなく、同じような困りごとを抱えながら暮らしている人は少なくないと考えてよいでしょう。
そもそも発達障害とは

グレーゾーンについて考える前に、発達障害そのものについて、公的な情報をもとに整理しておきましょう。
法律での発達障害の定義
発達障害者支援法では、発達障害を「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」として政令で定めるものとしています(第2条)。
また国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」では、発達障害(神経発達症)について、生まれつきの脳の働き方の違いから、ものの受け止め方や振る舞い方に特徴が表れ、暮らしの中で困りごとが生じている状態だと説明しています。親の育て方や本人の努力不足が原因ではありません。
医学の分野では名称が変わってきていて、以前の自閉症やアスペルガー症候群は現在「自閉スペクトラム症」、注意欠陥多動性障害は「注意欠如・多動症」、学習障害は「限局性学習症」と呼ばれることが多くなっています。
参考:e-Gov 法令検索「発達障害者支援法」、国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト「発達障害(神経発達症)」
自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(ASD)は、言葉や表情を使った人とのやりとりや、相手の気持ちを読み取ることに苦手さがあり、特定のことへの強いこだわりや、音や光などの感覚の過敏さが見られることもあるとされています。こころの情報サイトでは、大人になってからの困りごととして、仕事で臨機応変に対応しにくい、対人関係に悩むといったことが挙げられています。
注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠如・多動症(ADHD)は、注意が続きにくい、忘れ物が多いといった不注意の特性と、落ち着きがない、待つのが苦手といった多動性・衝動性の特性があるとされています。多動性は年齢とともに目立たなくなることが多い一方、大人になってからは、物事を計画的に進めにくい、気持ちのコントロールが難しいといった困りごとが出てくることがあります。
ADHDの特性と人間関係については、ADHDで人間関係が続かない原因と付き合い方のコツでも紹介しています。
限局性学習症(LD)
限局性学習症(LD)は、知的な発達に大きな遅れはないものの、読む、書く、計算するといった特定の学習に困難がある状態です。周囲から気づかれにくく、「努力が足りない」と誤解されやすいとされています。
ASD・ADHD・LDの特性は、一人の人に重なって見られることもあり、同じ診断名でも特性の現れ方は人によって大きく異なります。グレーゾーンという言葉が生まれる背景には、このように線引きが難しいという事情もあります。
大人のグレーゾーンで見られやすい困りごと
ここでは、発達障害の特性が関係しているかもしれないと感じる人が、大人になってから抱えやすい困りごとの例を紹介します。当てはまるからといって発達障害やグレーゾーンだと決まるわけではなく、誰にでも起こりうることも含まれています。あくまで、自分の困りごとを整理するためのヒントとして読んでください。
仕事での困りごと
- 口頭の指示を聞き漏らしたり、思い違いをしたりしやすい
- 複数の仕事を同時に進めたり、優先順位をつけたりするのが苦手
- 締め切りに間に合わない、書類の記入漏れなどのミスが続く
- 急な予定の変更や、臨機応変な対応に戸惑う
- 集中しすぎて、休憩や時間を忘れてしまう
こうした困りごとが重なると、「仕事が続かない」「自分に向いている仕事が分からない」と悩むこともあります。仕事が続かないときの考え方は、仕事が続かない原因と対処法も参考にしてください。
人間関係・コミュニケーションの困りごと
- 雑談の輪に入りにくく、何を話せばよいか分からない
- 冗談や遠回しな言い方を、そのまま受け取ってしまう
- 悪気なく言った一言で、相手を怒らせてしまうことがある
- 人と会ったあと、ぐったり疲れてしまう
相手に合わせようと気を張り続けることで、職場で孤立したように感じたり、人づきあいそのものが怖くなったりする人もいます。
生活・家事の困りごと
- 部屋の片づけや物の管理が苦手で、なくし物が多い
- お金の管理や、手続きの期限を守ることが難しい
- 家事の段取りを考えると、どこから手をつければよいか分からなくなる
心の不調につながることもある
困りごとが続き、叱られたり失敗したりする経験が重なると、「自分はだめだ」と自信をなくし、気分の落ち込みや不安が強くなることがあります。こころの情報サイトでも、ADHDのある人に不安や気分の落ち込みが伴うことがあると説明されています。つらい気持ちが続くときは、一人で抱え込まずに誰かに話してみてください。
女性・男性で違いはある?
困りごとの表れ方は、性別よりも一人ひとりの特性や環境によって大きく違います。ただ、まわりに合わせようと無理を重ね、困っていることを周囲に気づかれないまま疲れをため込んでいる人もいます。性別にかかわらず、「人と同じようにできない自分」を責め続けているなら、それ自体が相談してよいサインです。
人一倍敏感で疲れやすいと感じる人の中には、HSPという言葉に当てはまると感じる人もいます。HSPは病気や診断名ではなく、発達障害とも異なる概念です。違いについてはHSPとは?意味と特徴、発達障害との違いで紹介しています。
グレーゾーンのつらさは「甘え」ではない
診断がつかないことで、「病気でも障害でもないのだから、自分の努力が足りないだけ」「甘えていると思われそう」と感じ、一人で抱え込んでしまう人は少なくありません。
けれども、困りごとがあるのは努力や性格の問題とは限りません。人には得意なことと苦手なことの差があり、その差が大きいほど、苦手な場面でつまずきやすくなります。つまずきが続くと、まわりと比べて自分を責めてしまい、ますますつらくなっていきます。
辛いと感じる気持ちは、自分を守るための大事なサインです。「もっとがんばらなければ」と無理を重ねる前に、困りごとを整理し、まわりの力を借りることを考えてみてください。なんとなく生きづらいと感じる理由については、生きづらいと感じるのはなぜ?原因と対策も参考になります。
グレーゾーンかもと思ったら
自分はグレーゾーンかもしれないと感じたとき、どう動けばよいのでしょうか。チェックリストとの付き合い方や、診断がつかない場合の相談についてお伝えします。
チェックリストだけで判断しない
インターネット上には、発達障害やグレーゾーンのチェックリストがたくさんあります。自分の傾向を知るきっかけにはなりますが、チェックリストの結果だけで発達障害かどうかを判断することはできません。当てはまる項目が多くても少なくても、困りごとがあるなら相談してよいのです。発達障害かどうかの診断は、発達障害の診療を行っている精神科や心療内科の病院・クリニックで医師が行います。
診断がつかなくても相談はできる
受診して診断がつかなかった場合も、困りごとがなくなるわけではありません。診断の有無にかかわらず、困っている場面への工夫を一緒に考えてくれる窓口や専門家はいます。「診断がつかなかったから、もう相談できない」と思わず、困りごとを話せる場所を探してみてください。
グレーゾーンの人は、「診断がないのだから、自分の努力が足りないだけ」と考えて、困りごとを一人で抱え込みやすいといわれます。けれど、困っていることがあるなら、それだけで相談する理由になります。診断名がつくかどうかよりも、どんな場面で、何に困っているのかを言葉にしていくことが、自分に合うやり方を見つける近道です。
仕事や生活の困りごとへの対処法

困りごとへの工夫は、人によって合うものが違います。ここで紹介する方法から、自分に合いそうなものを試してみてください。
自分の得意と苦手を書き出す
どんな場面でつまずきやすいのか、反対にどんなことなら楽にできるのかを書き出してみましょう。「口頭の説明は苦手だが、文字で読めば理解できる」「一つのことに集中するのは得意」など、自分の傾向が分かると、工夫や相談の方向が見えてきます。
やることを見える化する
やるべきことはToDoリストにまとめ、終わったら消していきましょう。予定はカレンダーアプリに入れて通知を設定する、締め切りの前日にもアラームを鳴らすなど、記憶に頼らない仕組みをつくると、うっかりミスを減らしやすくなります。
指示はメモに残して確認する
口頭での指示は、その場でメモをとり、「〇〇を△日までに、という理解で合っていますか」と確認すると、思い違いを防げます。チャットやメールで指示をもらえるよう、職場にお願いするのも一つの方法です。
働く環境の調整を相談する
音や人の出入りが気になって集中できない、急な予定変更がつらいといったときは、席の位置や仕事の進め方を変えられないか、上司や職場の担当者に相談してみましょう。苦手な作業を少なくして得意な作業を増やしてもらうなど、小さな調整で働きやすさが変わることもあります。
疲れをためない生活リズムをつくる
気を張って過ごしたあとは、思っている以上に疲れがたまっています。睡眠時間をしっかり確保し、休日には一人で静かに過ごす時間をつくるなど、エネルギーを回復させる時間を意識的にとりましょう。
一人で抱え込まない
工夫しても困りごとが続くときは、無理を重ねずに専門家や相談窓口を頼ってください。仕事の悩みを相談できる場所は、仕事の悩みを相談できる場所でも悩み別に紹介しています。
周りの人の接し方
家族や同僚、パートナーなど、身近な人がグレーゾーンかもしれないと感じたときは、次のような接し方を意識してみてください。
- 「ちゃんとして」など抽象的な言い方ではなく、何をいつまでにどうするかを具体的に伝える
- 口頭だけでなく、メモやチャットなど文字でも伝える
- できないことを責めるより、できていることや得意なことに目を向ける
- 本人の困りごとを否定せず、「どうすればやりやすいか」を一緒に考える
- 「発達障害なのでは」と決めつけて伝えない
特に最後の点は大切です。周りの人が「グレーゾーンだ」と決めつけると、本人を傷つけてしまうことがあります。気になるときは、本人が困っていることに寄り添い、相談先の情報をそっと伝えるくらいにとどめましょう。周りで支える人自身が疲れてしまったときも、一人で抱え込まずに相談してください。
大人の発達障害グレーゾーンの相談先
困りごとや不安があるときは、診断の有無にかかわらず相談してかまいません。ここでは、気持ちを整理したいときのカウンセリングと、仕事の困りごとを話せる職場の相談先を紹介します。
カウンセリング
困りごとから生まれる不安や落ち込み、人間関係のストレスなどを話し、気持ちを整理したいときは、カウンセリングも選択肢の一つです。カウンセリングでは診断はできませんが、自分の得意や苦手を整理し、付き合い方を一緒に考えることができます。医療機関との違いは、オンラインカウンセリングと心療内科の違いで紹介しています。
グレーゾーンかもしれないという不安は、身近な人には話しにくいこともあります。利害関係のない公認心理師になら、「人と同じようにできない」と感じてきた経験や、職場や家庭で困っている場面を、順を追って話すことができます。お子さんの発達の特性で子育てに疲れているときは、「発達障害の子どもに疲れたときの対処法と相談先」も参考にしてください。
カウンセリングでは、たとえば次のようなことを話せます。
- 仕事でミスが続いて自信をなくしている、上司や同僚との関係がつらい
- グレーゾーンかもしれないと思うと不安で、どう受け止めればよいか分からない
- 自分の得意と苦手を整理して、働き方や暮らし方を見直したい
- 家族やパートナーに、自分の困りごとをどう伝えればよいか考えたい
うまく話せるか心配な方は、困っている場面や、そのときに感じたことをメモにしておくと、相談の時間を落ち着いて使いやすくなります。最初からうまく話そうとしなくても大丈夫です。話しながら少しずつ整理していけば、自分でも気づいていなかった気持ちが見えてくることがあります。
職場の産業医・人事の担当者
仕事の困りごとについては、職場の産業医や保健師、人事の担当者に相談する方法があります。席の位置や仕事の進め方など、働く環境の調整を一緒に考えてもらえることもあります。相談するときは、「グレーゾーンかもしれない」と伝えるかどうかより、「口頭の指示だけだと抜けてしまう」「急な予定変更があると混乱する」など、困っている場面と、こうしてもらえると助かるという工夫をセットで伝えると、話が進みやすくなります。
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Kimochiは医療機関ではないため、発達障害の診断や治療は行いません。カウンセリングは、困りごとにまつわる気持ちを言葉にし、自分を理解していくための場です。カウンセリングでどんなことができるかは、心理カウンセリングとは?受け方や効果、向いている悩みでも紹介しています。
「人と同じようにできない」と自分を責めてきた気持ちも、話すことで少しずつほどけていくことがあります。うまくいかなかった場面だけでなく、うまくいった場面もふり返りながら、自分らしいやり方を一緒に探していきましょう。
よくある質問
大人の発達障害グレーゾーンについて、よく寄せられる質問にお答えします。
Q. 発達障害グレーゾーンは診断名ですか?
いいえ、診断名ではありません。発達障害の特性の一部が見られるものの、診断には至らない状態を説明するために、一般的に使われている言葉です。法律や医学で定められた用語ではないため、人によって使い方が少しずつ異なります。
Q. 大人になってからグレーゾーンに気づくことはありますか?
あります。子どものころは目立たなかった特性が、就職や結婚、子育てなどで求められることが増えたときに、困りごととして表れることがあります。気になるときは、一人で抱え込まず、困っている場面を書き出して誰かに話してみてください。
Q. グレーゾーンかどうか、チェックで分かりますか?
インターネットのチェックリストは、自分の傾向を考えるきっかけにはなりますが、結果だけで判断することはできません。診断は医療機関で医師が行います。チェックの結果にかかわらず、困りごとがあれば相談してよいのです。
Q. グレーゾーンの人に向いている仕事はありますか?
グレーゾーンだからこの仕事が向いている、という決まりはありません。大切なのは、自分の得意なことと苦手なことを知り、それに合う仕事や働き方を選ぶことです。仕事の悩みは、職場の産業医や人事の担当者、カウンセリングなどで相談できます。
Q. 診断がつかなかった場合、支援は受けられませんか?
診断がつかなくても、困りごとについて相談できる場所はあります。職場での工夫は産業医や人事の担当者に、気持ちのつらさや得意・苦手の整理はカウンセリングで相談できます。
Q. 家族や同僚がグレーゾーンかもしれないとき、どう接すればいいですか?
決めつけて伝えるのは避け、本人が困っていることに寄り添いましょう。指示や約束は具体的に、文字でも伝える、できていることを認めるといった接し方が助けになります。支える側が疲れたときは、オンラインカウンセリング「Kimochi」で気持ちを整理するのもひとつの方法です。
まとめ
大人の発達障害グレーゾーンという言葉を知ることは、自分の困りごとを見つめ直すきっかけになります。ただし、言葉に当てはめることより、困りごとへの工夫と相談につなげることが大切です。
- 「発達障害グレーゾーン」は医学的な診断名でも法律上の用語でもない
- 発達障害の特性の一部が見られるものの、診断に至らない状態を指して使われることが多い
- 仕事、人間関係、生活などで困りごとを抱え、心の不調につながることもある
- つらさは甘えではない。チェックリストだけで判断せず、診断は医療機関で
- 得意と苦手の整理、見える化、メモと確認、環境の調整などの工夫が役立つ
- 診断の有無にかかわらず、カウンセリングや職場の産業医などに相談できる
困りごとがあるのは、あなたの努力が足りないからではありません。自分に合ったやり方や環境を探しながら、必要なときはまわりの力を借りていきましょう。
※Kimochiはオンラインカウンセリングサービスであり、医療行為・診断・診療は行いません。通院中の方は、主治医の許可を得たうえでご利用ください。
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