【医師監修】更年期のメンタル不調に悩む方に|原因・症状・対策を徹底解説

40代後半から50代にかけて訪れる更年期。この時期、体の変化とともに「理由もなく気分が沈む」「急に涙が出てしまう」「やる気が起きない」といった心の不調を感じる方は少なくありません。

こうした変化に戸惑い、「自分が弱くなったのでは」と不安になる方もいるかもしれませんが、それはホルモンバランスの変化によって起こる自然な反応です。

本記事では、更年期に起こるメンタル不調の原因・代表的な症状・セルフケアや医療の選択肢までを、医師監修のもとでわかりやすく解説します。

つらい気持ちを一人で抱え込まず、自分に合った対処法を見つけるきっかけとして、ぜひご覧ください。

 

この記事の著者

沢岻美奈子女性医療クリニック 院長

沢岻 美奈子(たくし みなこ)先生

 

女性の心と体の両面に寄り添う医療を実践する産婦人科医。琉球大学医学部卒業後、臨床経験を重ね、平成25年には「久保みずき女性検診クリニック」の院長に就任。令和5年からは「沢岻美奈子女性医療クリニック」として、幅広い女性のライフステージに対応する専門的な診療を行っている。

【保有資格・所属学会】
・日本産科婦人科学会 専門医
・日本女性医学学会 ヘルスケア専門医
・検診マンモグラフィー読影認定医
・乳腺超音波認定医
・オーソモレキュラー分子栄養認定医
・漢方茶マイスター
・日本女性財団 フェムシップドクター

更年期に起こるメンタル不調とは?

更年期に起こるメンタル不調とは?

更年期は、体だけでなく心にも大きな影響を与える時期です。

ここでは、そもそも「更年期」とは何かを確認したうえで、具体的にどのようなメンタル不調が起きやすいのかを詳しく解説します。

そもそも「更年期」とは何か

「更年期」とは、女性の月経が閉経に向かって次第に止まり、体内のホルモンバランスが大きく変化する時期を指します。一般的には閉経をはさんだ前後10年間(40代半ば〜50代半ば)を指すことが多く、この期間中に心身のさまざまな不調が現れることがあります。

更年期に大きく関わっているのが、女性ホルモン「エストロゲン」の分泌の急激な変化です。エストロゲンは、月経や妊娠など女性の体をコントロールするだけでなく、脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)にも影響を与えるため、急激に減少するとメンタルバランスが崩れやすくなります。

つまり、体の変化だけでなく、心の不安定さや気分の落ち込みも、ホルモンの変動によって引き起こされる「自然な反応」だということを知っておくことが大切です。

更年期に多いメンタルの不調とは

更年期には、以下のようなメンタル面の不調がよく見られます。

  • 原因のわからない不安感
  • 気分の落ち込み(うつ気分)
  • イライラや怒りっぽさ
  • 涙もろくなる
  • 集中力や記憶力の低下
  • やる気が出ない、無気力感
  • 夜眠れない、眠りが浅い

これらの症状は、病気とは診断されないことも多く、周囲に理解されにくいことがあります。しかし、本人にとっては日常生活に支障をきたすほどつらい状態になることもあり、「なぜこんなに気持ちが不安定なのか」と自分を責めてしまうケースも少なくありません。

重要なのは、これらの不調が一時的なものであり、適切な対処をすれば軽減・改善できるという点です。体だけでなく心にも変化が起こる時期だからこそ、正しい知識を持ち、自分を労わる意識が求められます。

更年期のメンタル不調の主な原因

更年期のメンタル不調の主な原因

更年期のメンタル不調は、単に気分の問題ではなく、身体的・社会的・心理的要因が複雑に絡み合って起こるものです。ここでは、主な3つの原因について詳しく見ていきましょう。

ホルモンバランスの急激な変化

更年期のメンタル不調に大きく関与しているのが、女性ホルモン「エストロゲン」が急激に、しかも揺らぎながら減少していくことです。エストロゲンは、女性の生殖機能を司るだけでなく、脳内の神経伝達物質にも強い影響を与えています。

特に、「セロトニン」や「ドーパミン」など、感情や意欲、睡眠の質に関係する物質の働きをサポートしているため、エストロゲンの分泌が揺らぎながら減っていくことで、これらの神経伝達がうまく機能しなくなり、不安感や抑うつ気分、イライラといった症状を引き起こしやすくなります。

つまり、心の不調は、気の持ちようや、その人の性格的な特徴だけではなく、生理的・神経学的な仕組みによって引き起こされる自然な反応といえるのです。

ライフステージによる心理的ストレス

更年期の時期は、人生の中でもさまざまな役割や責任が重なりやすいタイミングでもあります。たとえば:

  • 子どもの進学・独立などのライフイベント
  • 高齢の親の介護の始まり
  • 職場での責任増加やキャリアの転換期
  • パートナーとの関係性の変化や家庭内の役割負担

これらはそれぞれが大きなストレス要因であり、同時に起こることで心理的な負担が増幅される傾向があります。ホルモンの変動による不安定さと重なれば、心身への影響はより深刻なものになりかねません。

社会的役割の多さから「自分だけが頑張らなくては」と思い詰めることで、メンタルの疲労が蓄積しやすい時期でもあります。

体の不調との相互影響

更年期には、ホットフラッシュ、めまい、動悸、倦怠感、睡眠障害などの身体的な不調も多く見られます。これらの症状が続くことで、「また体調が悪くなるのでは」という先の見えない不安や、「何もできない自分への無力感」が生まれやすくなります。

特に睡眠の質の低下は、メンタル面への影響が非常に大きいとされています。

更年期の悩ましい症状の一つであるホットフラッシュ症状は、着替えが必要な程の夜中の急な発汗で目が覚めた後に、再び眠りにつくのが難しかったり、そのせいで朝スッキリしないまま1日をスタートすると、日中の集中力や意欲も低下し、抑うつ状態に近づいてしまうこともあります。

このように、身体の不調が心に悪影響を及ぼし、さらにそのメンタル不調が体調を悪化させるという「負のループ」が形成されることも、更年期特有のつらさの一因です。

更年期のメンタル不調によくある症状と特徴

更年期のメンタル不調によくある症状と特徴

更年期における心の不調は、個人差があるものの多くの人に共通した特徴があります。

ここでは、日常生活で見られやすい心の変化と、うつ病との違いについて解説します。

日常生活で感じやすい変化

更年期のメンタル不調では、次のような感情面の変化や心理的症状が現れることがあります。

  • 気分の落ち込み:理由がはっきりしないまま、気持ちが沈むことが増える
  • 涙もろくなる:些細なことで涙が出たり、感情がコントロールしづらくなる
  • 焦りや不安:将来への不安や漠然とした焦燥感に悩まされる
  • イライラしやすくなる:周囲に対して過敏に反応し、怒りっぽくなる
  • やる気が出ない・集中できない:日常的な家事や仕事に手がつかず、無気力になる

これらは、更年期特有のホルモンバランスの変動に起因する心の不調であり、必ずしも「精神的に弱いから」「甘えているから」といった性格的な問題ではありません。

また、症状の出方には波があり、「今日は大丈夫だけど、昨日はつらかった」といった日による違いがあるのも特徴です。

うつ病との違い

更年期のメンタル不調と、医学的な「うつ病」は一見似ているように感じられますが、いくつかの明確な違いがあります。

項目 更年期のメンタル不調 うつ病
症状の波 日によって変動がある(良い日もある) 長期間ほぼ毎日続く
原因 ホルモンバランスの変化が主因 脳の神経伝達の不調や心理的ストレス
身体的変化 ホットフラッシュや発汗などの更年期症状が伴う 身体症状は人によるが限定的な場合も多い
社会的活動 一部活動は可能なことが多い 日常生活や仕事に大きな支障が出ることが多い

更年期の心の不調は一時的で、ホルモンの安定とともに自然と落ち着いてくることが多い一方で、うつ病は持続的で専門的な治療が必要なケースがほとんどです。

ただし、男性よりも女性に多いうつ病は、ホルモンの変動する時期に起きやすいため、産後のお母さんや、更年期をきっかけにうつ病を発症する場合もあるため、つらさが長引く場合や生活に支障をきたすほどであれば、専門医への相談が重要です。

更年期の時に今すぐできるセルフケアと対策

更年期の時に今すぐできるセルフケアと対策

更年期のメンタル不調は、日々の生活習慣を少し見直すだけでも軽減できる可能性があります。ここでは、今すぐ始められるセルフケアの方法を紹介します。

食生活の改善

更年期の体と心をサポートするためには、バランスのとれた食事が基本です。以下の栄養素を意識的に取り入れることで、ホルモンバランスや神経伝達物質の生成を助けることができます。

  • イソフラボン:大豆製品に多く含まれ、女性ホルモンに似た働きを持つ
  • ビタミンB群:脳の神経伝達やストレス耐性に関わる(豚肉、レバー、卵など)
  • 鉄分:疲労感や無気力を防ぐために不可欠(赤身の肉、ほうれん草など)
  • マグネシウム:イライラや不眠の軽減に関与(ナッツ、海藻、バナナなど)

無理なダイエットや過度な偏食はかえって不調を招くため、「整える食事」を意識することが大切です。

特に大切な栄養素は、タンパク質と良質の脂質です。

適度な運動とリズムある生活

ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの軽い有酸素運動は、自律神経のバランスを整え、ストレスホルモンの分泌を抑える働きがあります。特に朝日を浴びながらの散歩は、セロトニンの分泌を促進し、気分の安定にもつながります。

朝散歩は、更年期女性にこそ日常に取り入れてほしい、心身の健康を保ち続ける習慣です。

睡眠の質を上げる

睡眠の乱れは更年期の不調を悪化させやすいため、以下のような対策が効果的です:

  • 就寝前にスマホやパソコンを見ない
  • 寝る90分前の入浴で体温調整を促す
  • リラックスできる音楽やアロマを取り入れる

質のよい睡眠は、脳と心のリセット機能を高めてくれます。

呼吸を整える

約二万回。それが私たちが無意識のうちにくり返している1日の呼吸の回数です。

余計な不安や、いらない感情を吐いて、新鮮な空”氣”を肺の隅々まで送りこむイメージで

腹式呼吸をしましょう。呼吸を意識するだけで、自分で自然と落ちつける状態を作ることができます。

更年期で悩んだら必要に応じて医療機関やカウンセリングを活用しよう

更年期で悩んだら必要に応じて医療機関やカウンセリングを活用しよう

更年期のメンタル不調は、セルフケアだけで改善しきれないこともあります。そのようなときは、専門的なサポートを受けることが、心身を守るための大切な一歩になります。ここでは、代表的な相談先とその特徴について紹介します。

婦人科でのホルモン治療(HRT)について

更年期の不調に対して行われる代表的な治療法に、ホルモン補充療法(HRT)があります。これは、不足した女性ホルモン(エストロゲンなど)を外から補うことで、症状を和らげる方法です。

ホットフラッシュや発汗などの身体症状が強く出ている方や、ホルモン変化による影響が明確な方に向いています。一方で、乳がん・子宮がんの既往歴がある方や、血栓症のリスクがある方には適さない場合もあります。

副作用としては、乳房の張りや不正出血、吐き気などがありますが、医師と相談しながら適切な処方を受けることで、効果とリスクのバランスをとることが可能です。まずは婦人科に相談し、自分に合った治療法かどうかを確認することが大切です。

心療内科や精神科

気分の落ち込みや不安が長引く場合、「更年期うつ」の可能性も考えられます。特に、2週間以上抑うつ気分が続いたり、睡眠や食欲の低下、仕事や家事が手につかない状態が続くようであれば、専門の医療機関での受診を検討しましょう。

心療内科や精神科では、必要に応じて抗うつ薬や抗不安薬などの処方が行われることもあります。更年期特有のうつ症状は、ホルモンの変化と心理的ストレスが重なって起きることが多いため、婦人科と連携した治療が勧められることもあります。

「心療内科=重い病気」というイメージを持つ方もいますが、つらさを感じた時点で受診してよいものです。我慢しすぎず、心に負担がかかりすぎる前に相談することが大切です。

オンラインカウンセリング

「病院に行くのは少しハードルが高い」「まずは気軽に話を聞いてもらいたい」という方には、オンラインカウンセリングという選択肢もあります。

たとえば、オンラインカウンセリング「Kimochi」のようなサービスでは、公認心理師の資格を持つ専門カウンセラーが在籍しており、スマートフォンやパソコンから自宅で相談することができます。ビデオ通話やチャット形式など、方法も自由に選べるため、初めての方でも安心して利用できます。

特に更年期の不調は「病気ではないけれど、つらい」という状態が続きやすいため、誰かに話すこと自体が大きな支えになります。日々の不安やモヤモヤを言葉にしてみることが、回復の第一歩となるかもしれません。

更年期のメンタル不調と向き合うために大切なこと

更年期のメンタル不調と向き合うために大切なこと

更年期の心の不調と向き合うとき、大切なのは「自分一人でなんとかしよう」と思い詰めないことです。体の変化と同じように、心の揺らぎも自然なもの。無理をせず、周囲とつながることで、回復への道が見えてくることもあります。

一人で抱え込まない

更年期の不調は、見た目には分かりづらく、周囲からの理解を得づらいこともあります。そのため、つい我慢してしまったり、「自分さえ頑張れば」と一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。

しかし、メンタル面のつらさを乗り越えるためには、人とのつながりが大きな支えになります。信頼できるパートナーや友人に話を聞いてもらうこと、あるいはカウンセラーや医師などの専門家に相談することは、自分の気持ちを整理し、心を軽くするきっかけになります。

自分のことを話すことに抵抗があるかもしれませんが、「話すこと」は決して弱さではなく、自分を大切にする強さでもあります。

不調は「あなたのせい」ではない

更年期に起こる心の不安定さや不調は、性格や努力の問題ではなく、ホルモンバランスの変化による生理的な反応です。

「気の持ちようでなんとかなる」「もっと前向きにならなきゃ」と思ってしまうと、かえって自分を責めてしまいがちですが、必要なのは「責める」ことではなく、「理解して、自分の気持ちを素直に感じる」ことです。

体と同じように、心にも変化が起きて当然。そのことを正しく知るだけでも、自分への見方がやわらぎ、不安や罪悪感を少しずつ手放していけるようになります。

終わりに|つらい時こそ、心のケアを

更年期は誰にでも訪れる、人生の節目ともいえる自然なプロセスです。そして、その過程で心身に不調を感じるのは、ごく当たり前のことでもあります。

大切なのは、不調を我慢したり無視することではなく、「今の自分に何が必要か」を知り、それに合った選択をすることです。

つらい時期にこそ、心のケアを意識的に取り入れることは、これから先の自分の人生をより穏やかに、より自分らしく過ごしていくための土台になります。

もし今、心が揺れていると感じたら、その気持ちに気づいてあげてください。誰かに話すこと、日々の習慣を見直すこと、専門家に相談することなどが、自分を大切にする第一歩になります。

あなたの心に、少しでもあなた本来の穏やかさが戻ることを願っています。