近年、注目を集めている「メタ認知」という言葉をご存知でしょうか?
自分自身を客観的に把握し、主観と客観を切り分けて思考・判断・行動する能力のことを「メタ認知」と言い、現代社会を生きて行く上で必要な能力であると言われています。
そんな「メタ認知」について、ここでは詳しく解説していきます!
メタ認知とは何か?
「メタ認知」とは、自分自身の主観や感情から離れ、自分の認知を一つ上の視点から客観視することを言います。
自分や他者の感情や思考、それに伴う発言や行動などを俯瞰(ふかん)して見ている状態で、比喩的に表現すると、「屋上から、地上の自分の動きを観察する。」または、「ストーリーの主人公である自分自身を、冷静に追う。」といった視点を自分の中に持つことができている状態であるとも言えます。
また、そのようなメタ認知により、自分や周囲の状況を客観視し、冷静な判断や行動を選択したり、自分を適切にコントロールしたりすることができる心理的な能力のことを「メタ認知能力」と言い、近年ではビジネスや教育においても育成が必要な力であるとされ、注目されています。
メタ認知の意味や由来
「メタ(Metacognition)」とは、ギリシャ語で「高次の」「超越した」という意味を持つ言葉で、「メタ認知」とは、その言葉通り、自分の認知(知覚・思考・判断・記憶・学習など)を「高次の」「超越した」視点から俯瞰して認知するという意味になります。
よって、「メタ認知」とは”認知を認知する”ことである。とも、よく表現されます。
メタ認知の提唱者はジョン・H・フラベル
「メタ認知」とは、アメリカの心理学者ジョン・H・フラベルが提唱した言葉で、もともとは認知心理学の分野において使用されていた言葉でした。
しかし、近年になり、メタ認知はビジネススキルとして重要な能力であるとの認識が広がったため、最近では、メタ認知能力向上のための研修や人材育成といったものも多く行われるようになっています。
メタ認知の概念の起源はソクラテス?
「メタ認知」の概念の起源を振り返ると、古代ギリシャの哲学者であり、「哲学者の父」と呼ばれるソクラテスに遡ると言われています。
ソクラテスは「無知の知」「不知の自覚」という概念を提唱し、自分が無知であることを自覚していることの重要性を説きました。
もう一方の自分が「知らないことを知っている」その状態こそがまさしく「メタ認知」であると言えるのです。
2種類のメタ認知についてわかりやすく解説!
メタ認知的知識
メタ認知的知識とは、自分や他者、物事を客観視することで得られる知識のことを言い、その知識は「自分や他者に関わる知識」「課題に関わる知識」「方略に関わる知識」の3つに分類されます。
メタ認知することにより浮かび上がった、「自分や他者の特性や行動の傾向」「自分自身や周囲の中に存在する課題」「それらの課題に対する手立てや解決方法」といった内容を知識として理解していることが重要とされ、それら3つの知識は総合して「メタ認知的知識」と呼ばれます。
メタ認知的技能
メタ認知的技能とは、メタ認知的知識を生かし、それをもとに自分自身の弱点を改善したり、問題を解決に導くために、具体的な対策を進めていく能力のことを言い、「メタ認知的技能」はメタ認知的知識の実践的技能と言うことができます。
知識を実際に行動に生かすという面では、こちらの技能の方が、より重要な能力であると言うことができるでしょう。
メタ認知の具体例
メタ認知は、自分自身を振り返るためにも使うことができますが、他者との関わりにおいての自分や、集団の中での自分に対して使うことで、よりその効果が生きてくるものであると言えます。
人は他者との関わりなしでは生きられないため、他者とのより良い関係性を築き、協調関係を結んでいく上でもメタ認知は重要なものになります。
自分自身を俯瞰して見ることで、自分が他者からどのように見えているか、自分の発言や行動が他者にはどう受け取られているか、本来、適切な振る舞いはどのようなものか?そういったことを探るためにも、メタ認知は必要な能力であると言えます。
メタ認知能力が高い人の特徴・具体例
メタ認知が高い人は、常に自分や他者を俯瞰的に見ているため、自分や周囲に対しての分析力が高く、何事にも動じず、基本的にはいつも落ち着いているという特徴があります。
- それぞれの人の立場や状況を見極め、バランスを考えながら動くことができる
- 周囲の人と協調的に関わり、細部に気付き配慮ができる
- 主観や一方の意見に偏ることなく、全体を見渡し、その現場の中での最善を考えて動くことができる
- リーダー的な立場、もしくはその補佐役に適している
メタ認知能力が低い人の特徴・具体例
一方で、メタ認知の低い人は、主観と客観を分けることができないため、常に自分の主観をもとに動いてしまい、周囲を顧みず、周囲の人やその場の状況を振り回してしまいがちな特徴があります。
- 自分自身の感情や、一方的な判断や考えだけで動いてしまう。自分のこだわりを優先しようとする
- 自分の主観だけで周囲を見るため、適切に状況や相手の気持ちを読み取ることができない
- 本人に悪気はなくても、周囲を振り回したり困らせてしまっていることがある
どんな人がメタ認知が高い?5つの特徴を紹介!
実際にメタ認知が高い人はどのような特徴があるかをみていきましょう。
自分や周りの人が当てはまっているかどうかを確認してみてください。
自分の感情をコントロールすることができる
周囲の状況だけではなく、自分自身についても客観的に見て分析する習慣が身についているため、自分の感情も冷静に捉えることができ、自分自身の感情に振り回されることはありません。
また、自分の感情をコントロールし、「感情が先立った発言」や、周囲の状況や他者の気持ちを顧みない「突っ走った行動」といったものをとることはないため、周囲の人を振り回したり困らせることもありません。
状況や物事に対して、冷静な判断と対処ができる
自分の置かれている状況や、その場で起きている物事をいつでも俯瞰して見ているため、その場で問題やハプニングが起きたとしても感情を乱すことなく、冷静な判断のもと適切な対処をすることができます。
問題が起きると、様々な人の感情や思いがその場に渦巻きますが、メタ認知が高い人は、その渦に巻き込まれることなく、冷静にその場に立っていることができます。
周囲の人に対して適切な配慮ができる
相手の様子やその場の状況を冷静に観察すると共に、自分の感情や主観をいったん脇に置いて行動することができるため、周囲の人に配慮のある発言や行動をとることができます。
メタ認知が低いと、相手やその場の状況を見ることができないため、主観だけで判断・行動してしまったり、無配慮な発言をしてしまいがちですが、メタ認知が高い人にはそのような発言や行動が見られることはありません。
周囲の人や物事と適切な距離感を保つことができる
メタ認知が高い人は、心理的に一つ上の視点から人や物事を俯瞰して見ているため、その場の状況や相手に対しても、適切な距離感を保つことができていると言えます。
そのため、感情的になって一方に対して「肩入れする」、一つの物事について「押し通そうとする」といったバランスを欠いた姿勢をとることはありません。
自分の意見は持ちつつも、周囲と関わる際には中立的な視点を持ち、冷静な判断や分析をすることを心がけています。
柔軟性が高く、成長をし続けることができる
メタ認知が高い人は、常にメタの視点から自分自身や物事を見ることができ、冷静に判断・分析しているため、自分自身の感情や主観、そこからくる独断的思考にかじりつくことはなく、柔軟性が高い傾向があります。
常に、あらゆる角度からの様々な意見やアイディアを自分の中に取り入れながら思考しているため、考え方が「凝り固まる」といったことがなく、歳を重ねながらも柔軟に成長し続けることができます。
メタ認知を鍛える・学ぶメリットを紹介!メタ認知の重要性
メタ認知が低いとどうなるのか?
メタ認知が低い人は、自分や周囲の状況・物事などを客観視できないため、常に自分自身の感情や主観が先立ち、感情にまかせた行動や、強い思い込み、こだわりといったもので他者を振り回してしまいがちです。
また、振り回されるのは他者のみならず、実は自分自身も「自分にとらわれてしまっている」状態であるため、自分自身の固着した思考や行動パターンに振り回され、疲れてしまいがちです。
では、メタ認知を鍛えるメリット(利点)について紹介します。
- 感情に振り回されることがなくなり、コミュニケーション力が高まる
- 視野が広がり、新たな視点で物事を考えることができるようになる
- 細かなことに気づくようになり、小さな課題や問題点も拾い上げることができるようになる
- 難しい状況に置かれても、最善の策を模索しながら冷静に対処することができるようになる
- 様々な経験をする中で柔軟性を養い、成長していくことができる
メリット①感情に振り回されることがなくなり、コミュニケーション力が高まる
メタ認知能力が高まると、自分の感情や、現在の状況を常に一歩引いて見る姿勢がつくため、自分や他者のマイナス感情を過剰に受け取り、それに振り回されるといったことがなくなります。
また、心理状態を偏りのない「フラットな状態」に保ち、他者をよく見て、適切な配慮ができるようになるため、コミュニケーション面での軋轢などが生まれにくくなります。
メリット②視野が広がり、新たな視点で物事を考えることができるようになる
メタ認知を自分の中に取り入れると、今まで自分一人の視点にかじりついたカメラの「ズーム状態」であったところから、グッと引いて広角で見ることができるようになります。
今まで見えていなかった物事の背景や他者の気持ち、別の側面といったものが見えるようになり、新たな考え方や新たな発見を得、今までになかった答えを導き出すことも可能です。
メリット③細かなことに気づくようになり、小さな課題や問題点も拾い上げることができるようになる
視野が広がりメタ認知能力が高まると、新たな視点を持てるようになるだけではなく、今まで気づかなかった細かなことにも気づくようになります。
探し物をしている時、自分の視野が狭くなっているほどに探し物がみつからないのと同様、視野を広げ俯瞰で物事を見れるようになった方が、細かな物事にも気づき拾い上げられるようになるのです。
そのため、メタ認知が高まると、仕事上でも細かな課題や問題点を収集し、対処することができるようになります。
メリット④難しい状況に置かれても、最善の策を模索しながら冷静に対処することができるようになる
日常生活や仕事上で、時にはトラブルや難しい状況に置かれることもあります。
その際、高いメタ認知を持っていると問題ばかりに焦点を当て、過度に動揺したりマイナス思考に陥ったりするのではなく、その場の状況を冷静に観察することで、最善の策を導き出そうとすることができます。
メタ認知能力を向上させると、自分の感情にも周囲の状況にも振り回されることがなくなるため、分析をもとに冷静な対処ができるようになるからです。
メリット⑤様々な経験をする中で柔軟性を養い、成長していくことができる
メタ認知能力が高まると、見える範囲が増え、自分以外のあらゆる考え方やあらゆる価値観が世の中に存在することがわかってくるため、自然と柔軟性が養われます。
柔軟性が高まると、様々なことを吸収し、新しい学びや価値観も自分の中に取り入れていくことができるようになるため、年齢を重ねながらも、成長をし続けることができます。
また、メタ認知により、随時自分の課題に気づいてもいるので、意識的にその課題と向き合える人は、常に向上し続ける存在でいることができるでしょう。
メタ認知を高めるには?鍛え方・トレーニング方法
メタ認知的モニタリング(セルフモニタリング)
メタ認知を高めるトレーニング法には、自分自身を客観的に把握し、現状の自分をチェックしていく「メタ認知的モニタリング(セルフモニタリング)」という手法があります。
普段意識せずにしてしまっている行動や発言、思考パターンなどに意識を向け、自分自身を観察することで、気づきを得るトレーニング法です。
他者を見るように自分自身を見ることで、自分を冷静に捉え直し、自分の弱点や問題点を明確にし、そこに向かい合います。
メタ認知的コントロール
セルフモニタリングで出てきた自分自身の弱点や問題点をもとに、自分自身を律したり、行動改善を行っていくトレーニング法のことを「メタ認知的コントロール」と言います。
言わば、セルフモニタリングを行った上での実践編のようなものであり、こちらを行っていくことの方が、メタ認知を高めるためにはさらに重要であると言えます。
自分自身に向かい合う必要もあるので、心理的な強さも養われることとなるでしょう。
【メタ認知】まとめ
メタ認知について知ることで、自分自身や普段関わりが深い相手のメタ認知の傾向といったものが、少し見えてきたのではないでしょうか?
それと同時に、今後の自分に必要な力、または、すでに自分が持っていて得意としている力に気づけた方もいるかもしれません。
複雑化・多様化し続ける現代社会において、メタ認知はとても重要なスキルとして、育成の必要性が叫ばれている能力の一つです。
これを機会に「メタの視点」による「メタ認知」を取り入れてみてはいかがでしょうか?
まずは、普段の自分から一歩離れ、新たな視点から自分を見直してみることが、自分自身の成長への第一歩となります!