「心理的安全性」とは、Googleが2012年に立ち上げたプロジェクト・アリストテレスの調査によりその名が知れ渡りました。
「効果的なチームとはとはどのようなチームか」を4年の歳月をかけて調査・分析しました。
結果「心理的安全性」の確立は、「効果的な組織チームを作るうえで重要である」と結論づけました。
また、離職率・収益性においても影響を及ぼす事がわかりました。
今回は、心理的安全性についてまとめました。
仕事場を良くしたいと考える経営者やマネージャー層、仕事で悩んでいる方の参考になればと思います。
とても有意義な内容をまとめましたので、少し長めになっています。休みながら読むことをおすすめします。
心理的安全性とは?事例を2つ紹介!
「心理的安全性」という言葉を最初に打ち立てたのは、1999年にハーバード大学教授のエイミー・C・エドモンドソンです。
教授はその概念を次のように定義しました。英語で「サイコロジカルセーフティ(psychological safety)」といいます。
「チームの心理的安全性とは、チームの中で対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと」
つまり組織やチームの中で、自分の率直な意見や、素朴な質問を安心して発言できて、なおかつ問題とならないことを言います。
普通なら遠慮のない発言をすることで、人間関係の悪化に繋がるケースであっても、心理的安全性ではそのようなリスクは生じません。
しかし、ほとんどの職場において「対人関係のリスク」は大きく、「健全な議論をし、生産的で良い仕事をする」という組織の要を阻害してしまいます。
次に、2つの事例を述べていきます。
Googleの「プロジェクト・アリストテレス」調査結果
「心理的安定性」はエイミー・C・エドモンドソン教授によって、学術的に知名度のある概念でした。
それをビジネス界に広めるきっかけを作ったのは、Googleが2012年に立ち上げたプロジェクト・アリストテレスの調査です。
4年の歳月をかけ調査・分析の結果、「心理的安全性」の確立は、効果的な組織・チームを築く上で最重要であり、「心理的安全性が高いチームは成果を出しやすい」という結論づけをしました。
世界有数の先進企業であり、優秀な人材の集合体であるGoogleが、個々の能力より大切なものとして「心理的安全性」を上げたのです。これにより「心理的安全性」は世界的に注目されることとなりました。
NASAのコロンビア号空中分解事故
ビジネス業界だけではなく、心理的安定性の欠如により命が失われたというケースがあります。
2003年、スペースシャトルコロンビア号が空中で爆発し、7名の宇宙飛行士の命が失われました。
事故後の調査により、機体の損傷に気付いていた技術陣の報告を、NASAの管理機構は取り合わず、幾度とない調査要望さえ聞き入れなかったことが判明したのです。
声を上げても聞き入れてもらえない状況が続けば、結果的に大惨事に繋がる事を証明した事例です。これこそ「心理的安全性」の欠如が招いた致命的な事故と言えるでしょう。
参考記事:Edmondson (1999) Administrative Science Quarterly. 44(2)
心理的安全性が企業にもたらすメリット
従業員の生産性が向上
Google社によると、最も生産性が高かったのは、個々のメンバーが活発に意見を出し合い、反対意見も尊重しあうチームでした。
心理的安全性が確立されることで、立場や職位などが影響することなく、個人の意見をだしやすくなります。その結果として、これまでになかった斬新なアイデアが生まれることがあります。
従業員の離職率の低下を実現
心理的安定性が保たれると、従業員のエンゲージメントの向上につながります。
つまり、自ら企業に貢献したい思いが強まることで、結果的に離職率が低くなり、優秀な人材の流出を防ぐ事に繋がります。
ワークエンゲージメントの向上
メンタル面での健康度を示し、「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃い、仕事に対してやりがいを感じている状態を示しています。
自分を受け入れてくれる職場は、人間関係のプレッシャーなどの負担が少ないため能力が発揮され、主体的に仕事に取り組むことができる心理状態となります。結果的に組織で目指すビジョンを明確に共有しやすい状態になると言えます。
明確に共有することで、目標達成のスピードが高まり、成果を出すまでの時間の短縮につながります。
従業員の考え・提案の共有を促進
「心理的安全性」が確立すると、職位や経験などで発言を否定されることが少なくなるため、個人の意見を出しやすくなります。
お互いの個性を尊重することで、個人本来の強みや、独創性を発揮しやすくなります。
結果的に、従業員同士のノウハウや知識・経験など共有され個人の能力が向上されるとともに、チーム全体で共有することが可能となり、従業員と企業とが意見を共有できる風通しの良い環境となります。
そのような環境では、現状をよくするための提言が積極的に行われるため、イノベーションが促進されます。
従業員の自主性の向上
「必要的安全性」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを、誰に対しても安心して発言できるという前提があります。
それは、安心して仕事に集中できるという環境はにつながり、個人のパフォーマンス向上にも結びつけます。
「自分もプロジェクトに貢献している」「もっと上手くいく方法はないか」などの責任感が芽生え、関心を持ったりすることが期待できるのがメリットです。ひいては、仕事の効率化や業績向上にもつながり、目標達成のスピードも速くなります。
多様性を認めて従業員と会社が成長することができる
多様性が認められている職場は、多様な能力と意見を持つ人間が集まるようになります。
価値観の違う人間が集まると、お互いの刺激から、イノベーションが生まれやすくなります。
新しいプロジェクトを考察できることは、企業が新たな一歩を踏み出すきっかけにもなります。
価値のあるイノベーションが生まれれば、業績もアップが期待できます。Googleの研究結果にあるように、気兼ねなく発言できる事のメリットは、従業員側・会社側の双方にとって有益な事であるのです。
心理的安全性を高める4つの因子
何を意識する必要があるのかということに触れていきます。
心理的安全性を高めるためには以下の4つの因子が最重要と言われています。
- 「話しやすさ」
- 「助け合い」
- 「挑戦」
- 「新奇歓迎」
これらの4つの行動がチームのなかで多く見られるとき、そのチームは心理的に安全であると言えます。
この理想の状態を目指すためには、まず自分たちのチームの起こっている行動の形をよく観察することから始めます。
「チャレンジの機会を作っているか」「きちんと意見に対して向き合っているか」などの、4つの要因に結びつく行動がすでに起きていれば、どんどん引き続きこの行動を増やせるように行動します。
反対に、「叱責」などのわかりやすい罰や、「絶対に失敗するな」などの圧力をかける言い方は、モチベーションを下げる行為であるため抑制しなければなりません。
では、4つの因子について1つずつ詳しく見ていきましょう。
① 話しやすさ
最も重要で、ほかの3つの心理的安全性の土台となるのが「話しやすさ」の因子です。
「話しやすさ」は仕事と相手の状況を把握し、多くの視点から状況を判断し、率直で斬新なアイデアを募集するために重要です。
「話しやすさ」が確保されていれば、報告や連絡、意見や立場の表明、雑談を含めた情報共有や質問がチームのなかで飛び交います。
・みんなが同じ方向を向いて「これだ」となっているときそれでも、反対意見があればそれを認め合いシェアする事ができるか?
・問題やリスクに気付いた瞬間、声をあげられるか?
・知らない事、わからない事がある時に自然に尋ねることができるか?
これらは「話しやすさ」の典型的な例だと言えます。
コミュニケーションを活発化させるためには、リーダーや上司は話しやすい存在である必要があります。
② 助け合い
仕事にはトラブルがつきものです。「助け合い」の因子は、通常業務やルーティーンでの仕事を超えて、トラブルに迅速に対処・対応できるかが重要なポイントです。
「助け合い」が確保されていれば、チームはトラブルや行き詰まりに際し、必要な情報を共有し、相談し、支援・協力を求める事ができます。
・問題が起きた時、人の間違いを責めるのではなく、建設的に問題解決に向けた方向に進める事ができるか?
・チームのリーダーは解決に向けた行動を起こしてくれるか?
・減点主義ではなく、加点主義か?
プロジェクトをタスクに分割し、個々がタスクこなし、こなされたタスクを積み上げればプロジェクトが完成する、というやり方ではありません。
この「助け合い」の因子が意味するものは、「自分の責任範囲は自分で何とかする」ではないのです。
それは、正反対の姿勢です。
③ 挑戦
「挑戦」の因子が確保されているとき、チームは正解がない中で模索し、実験し、迷走し、失敗を繰り返して機会をつかんでいきます。
冗談のようなアイデアや仮説も歓迎され、正論を超えた柔軟な発想こそが歓迎されます。
・チャレンジすることは損ではなく、得なことだと思えるか?
・前例や実績にこだわりすぎていないか?
・突拍子のないアイデアでもチームで共有してみよう・やってみようとおもえるか?
ここでいう「挑戦」はチームによる「模索」「試行錯誤」です。
結果、失敗であってもそれをあげつらうのではなく、学び・改善へと移行できる考えが浸透しているかです。
心理的安全性が確立されていれば、仮説検証や模索などのプロセスを楽しめます。
注意したい事は、「とりあえずやってみよう」だけで終わることなく、振り返り、改善、撤退の判断につなげることを1セットとして取り組めるかということです。
④ 新奇歓迎
「新奇歓迎」の因子は、「挑戦」の因子よりさらに人に焦点を当てた因子です。キーワードは「多様性」の容認です。
メンバー1人1人が個々の才能を輝かせ、多様な観点から社会・業界に参入していくために必要な因子です。
「新奇歓迎」が確保されているとき、過去の常識から解放され、個々の才能に合わせた最適配置や役割分担を行うことができます。チームとしてのアウトプットを最大限に目指すことが可能となります。
・役割に応じて強みや個性を発揮することが歓迎されていると感じるか?
・常識にとらわれず、様々な視点や物の考えかたを持ち込むことが、歓迎されているか?
・目立つことはリスクではない、自然な事であるとおもえるか?
人間を同質な集団として、歯車や道具のように扱うことは、マネジメント側からすれば手間がかからないやり方です。
しかし、このVUCA(注1)の時代において、同質性を前提としたマネジメントでは企業に未来はありません。
SDGsでも大きなテーマになっており、17の国際目標がありますが、「誰も取り残さない、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現」とされています。こうした目標に到達するには「新奇歓迎」は重要性の高い項目です。
(注1)Volatility Uncertainty Complexity Ambiguityの頭文字。造語。
社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況の事を意味する。変動性が高く、不確実で複雑、さらにあいまいさを含んだ社会情勢のこと。
心理的安全性が低いチームの5つの特徴
では、どのような職場は、「心理的安全性」が低いといえるのでしょうか。
- ぬるい職場
- きつい職場
- 意見のぶつかり合いを避ける職場
- ミスをすると批判される職場
- 他のメンバーに助けを求める事が出来ない職場
上記、心理的安全性が低いチームの5つの特徴をあげて説明していきます。
① ぬるい職場
誤解の最たるものが「ぬるい職場」ではないでしょうか。
人間関係は和気あいあいとしていますが、納期も厳しくない職場です。
このケースは、「心理的安心性」が低いのではなく、仕事の基準の低さが原因です。
「心理的安定性」は高いので、人々はお互い意見したり、協力しあいます。しかし、仕事の基準が低いので、納期の基準がだらだらと伸びていったり、目標未達でも対策を打たないことが多いのです。
どこからか「まあこれくらいでいいか」というフレーズが浮かんでくる職場です。
このような状況では、仕事自体は大変ではなくとも、仕事そのものから得られる達成感は感じられません。
成長志向のビジネスパーソンなら、転職という言葉が頭をよぎるのも、このような職場です。
② 個人の成果を求める空気が強い「きつい職場」
一方「心理的安全性」が低く、仕事の基準が高い場合はどうでしょうか。
一見「士気」が高く見えそうな側面もあります。しかし、「きつい職場」というのは、「余計なことは考えず、成果をだせ」と言われるのがこの職場の特徴なのです。
メンバー全員の協力やチーム全体の目標達成を目指すのではなく、個人ごとのノルマを追いかけたり、組織内で個々が競争しあうことが多くみられます。
個人の目標達成は目指せても、「チームでの目標達成を目指そう」という空気は薄くなります。
結果として、チーム全体のためのノウハウや改善提案の共有がされることはありません。
③ 意見のぶつかり合いを避ける職場
正解のない時代に「意義のある対決」はむしろ推奨すべきことです。
自分と異なる意見や価値観を受け入れる雰囲気でない、拒絶や批判をおそれて自分の意見が言えないというのが「意見のぶつかり合いを避ける職場」の特徴です。
率直な意見を言うと、空気が壊れたり、自分が嫌われたりするリスクがあるのではないかと考えるのです。
面倒な人だと思われるリスクを回避するために議論を黙って見ている、失礼な部下だと思われたくないので率直に意見しなかったなど、自然体の自分をさらけ出す環境がない事を言います。
④ ミスをすると批判される職場
新しい事にどんどん挑戦してもいいと言われたとしましょう。しかし、挑戦したことで大きなミスが出ると部署から飛ばされてしまうなど、無言の圧力を感じる雰囲気があると、挑戦しようにもできない環境ができてしまいます。
萎縮し小さなミスさえオープンにできなくなると、業務改善が生まれにくく、結果として大きなトラブルに繋がり安いというデメリットが生じます。
⑤ 他のメンバーに助けを求める事が出来ない職場
各メンバーが競い合うライバルになり、拒絶や批判を恐れていると、助け合いの精神は生まれません。
助けを求めることは、自分の無能さをさらけだす行為であり、仲間の信頼を損ねるのではないか、という心配が生じ助けを求めることに歯止めがかかります。
他のメンバーへ助けが求められないと、各個人の能力へ依存することになり、組織の実行力の低下につながります。
心理的安全性によくある誤解
心理的に安全なチームというのは、成果のために必要なことを発言したり、試してみたり、挑戦したりすることが、安全である(罰を与えられない)ということです。
心理的安全性の高いチームは、「結束したチーム」とも少し異なります。
スポーツの世界にある、目標に向かって一致団結する姿は、チームの理想として掲げられます。しかし、裏を返せば「結束したチーム」は実のところ、一番異議を唱えにくいチームともなりえるのです。
チーム全体の意見が一致しているときにでさえ、「それは違う」と反対意見を言えるのが「心理的安全性」が確保されたチームと言えます。
心理的安全性を測定するチェック一覧
では、どのようなチームが「心理的安定性」が高いと言われるのでしょうか。
エドモンソンは1999年の論文で、「心理的安定性」を測るための「7つの質問」を提唱しました。
①チーム内でミスをすると、多くの場合批判されてしまう
②チーム内では、難しい問題・課題を互いに指摘しあう事ができる
③チームメンバーの中に、異質な個性を理由に他者を拒絶する人がいる
④チーム内でリスクの高い発言や行動を安全だと感じられる
⑤チーム内で他のメンバーに助けを求めることがむずかしい
⑥チーム内のメンバーと仕事をする際に、自分のスキルや能力が尊重され仕事に生かせると感じられる
⑦チームメンバーと仕事をする際に、自分のスキルや能力が尊重され仕事に活かせると感じられる
これらの質問に対して、ポジティブな回答ができるチームは「心理的安定性」が高いと言えます。
つまり、これらの質問に良い答えが返せるような環境作りを心がける必要があると言えます。
心理的安全性の作り方とは?高める方法とは?
次に具体的にどのようなことをすれば、心理的安全性の高い組織を作ることができるのかを紹介していきます。
- 相談しやすい環境を作る
- 発言の機会を均等に設ける
- 業務以外に雑談ができる時間を設ける
- 感謝の気持ちを日常的に伝える
- 「当たり前」ではなく「ありがたい」へ
- 価値観や多様性を認め合う
- 徐々に成功体験を感じる事ができるようにする
- 定期的に評価基準を充実させる
- ポイント制賞与の導入
相談しやすい環境を作る
風通しの良い職場は上司が握るといっても過言ではありません。また、上司と部下という上下関係だけではありません。現場の責任者、ベテラン社員など、人の上に立つ立場の人ほど、こんなことで相談すると情けないという思考が働いてしまいます。
「相談することは恥なのか?」こんな疑問がでてきます。
この疑問に対する答えは、相談を持ち掛けにくい雰囲気と、相談を持ち掛けた時の上司の対応にあると考えられます。
相談しやすい雰囲気を作り上げるには、やはり上の立場の人がカギを握ります。上司が率先して社員とコミュニケーションを測る事で、全体の雰囲気が和らぎ、相談しやすい環境が生み出されます。ポイントは下記の3つです。
- 部下の様子を観察する
- 必要に応じて自分から声をかける
- 安心感のある場を作る
もちろんミスに対する、指摘・指導は必要です。しかし、大声で怒鳴ったり、正論をふりかざして相手を追い込んだりすることは何の解決にもなりません。次にミスをしたとき、報告のハードルが上がります。結果、大きなトラブルにつながりかねないのです。
さらに悪循環なのは、叱責されている社員を目撃した他の社員に対しても、報告・相談のハードルが上がります。切り出しにくい内容の相談・報告ほど、いち早く話しやすい場を作る必要があるのです。
相談や報告が迅速にされると、最短で問題解決に向かうことができるのです。犯人探しに奔走して、社内の雰囲気を悪いものにしてはいけません。
発言の機会を均等に設ける
メンバーは自分の意見を自由に述べられてこそ、心理的安全性が高いチームだと考えます。
しかし、実際にはすべてのメンバーに、均等に相談の機会が与えられていないのが現状です。優秀なメンバーが目立つため意見までが優先され、他のメンバーは目もくれられないという事が起こるケースがあります。
上司は特定の人ばかりの意見ばかりを優先することをやめ、すべてのメンバーが発言できる機会を与えましょう。
そうは言っても、積極的な発言が苦手なメンバーもいます。そんな人のために、会議で対等に意見を出しやすくする手法があります。
「ラウンドロビン方式」がオススメです。
これは、事前に付箋紙などに参加者全員の意見を書いてもらい、会議中で読み上げ張り出していくというものです。
あらかじめ参加者に個別に話しかけ、意見を考えてもらうなどの事前準備を行うのが有効です。
業務以外に雑談ができる時間を設ける
上司と部下の1対1のミーティングを行いましょう。
ざっくばらんな雰囲気で約30分の面談を、週1回行います。
最近仕事で感じる事、仕事で得た事をこの先どうしていきたいかなど、雑談をはさみながら会話していきます。
ポイントは、上司の部下に対する姿勢で「話をしっかり聞いているよ」という態度を示し、部下がなんでも隠せず話せる雰囲気を作る事が求められます。
目的は、部下に安心感をもってもらうこと、1対1のミーティングを繰り返すことで「上司は自分を気にかけてくれている」「意見を聞いてくれる企業だ」という思いが部下に芽生えれば、信頼関係が構築されたと言ってもいいでしょう。
感謝の気持ちを日常的に伝える
ここでいう「感謝」は「気持ちが大切」というような「精神論」ではなく、あくまでも行動を重視します。
ある「心理的安全性」に関するイベントでのアンケート調査の結果があります。
「遠慮して言えなかったことはなんですか?」という質問に、「言いにくさ」が最も低かったのは「感謝を伝える」ことでした。
さらに調査の結果、「エンゲージメントの高いチームをマネジメントするリーダーは、ありがとうに理由をつける」という結果も出ています。つまり、感謝の言葉に理由を付けると、エンゲージメントにも聞くというのです。
「当たり前」ではなく「ありがたい」へ
まず、私たちは「感謝しろ」とか「危機感を持て」とか心の事はコントロールが難しいということです。
そのため、「行った行動」の結果に対しての感謝について考えていきたいと思います。
実は「理由を付けて感謝」を続けるには、実際にメンバーを良く見ている、普段から気にかけている必要がある事に気付きます。これを続ける事で、あなた自身がメンバーをよく見ている良いリーダーへ変われるという効果があります。
大切なことは、監視ではなく、ポジティブに「見ている・気にかけている」事が重要です。
そして、よく見ているからこそ気付く一言を伝えていくことが効果的です。
価値観や多様性を認め合う
まず、価値観が正しい、間違っていると決めつけているのはいつでも自分自身であることをしっかりと理解しましょう。
そもそも、価値観に正しいも間違いもないのです。
もし、価値観に正しい、間違いがあるのであれば「あの人の価値観が間違っている」と思う自分の価値観こそが間違っているのです。
相手の価値観を受け入れることはとても大切です。
これは当たり前の事なのですが、なかなか難しく、価値観の違う相手の話を受け入れていくことはなかなか大変です。
しかしながら、これは自分が正しいという勘違いから引き起こされていることを忘れてはいけません。
徐々に成功体験を感じる事ができるようにする
仕事であれ勉強であれ何に対しても、成功体験はモチベーションを引き出し自信につながります。まず小さな成功体験を意識しましょう。ちいさな成功体験は苦手克服にも役立ちます。
自分の意見を述べることは勇気がいる事です。発言への恐怖心がある人は特にそうです。このような人の発言への恐怖心を薄めてあげることが必要です。周りの協力のもとで、発言してよかったという小さな成功体験を与えてあげることが出来れば、満足感が生まれます。それが積み重なり自信とつながるのです。
例えば、会議において最終的な決断を本人に任せます。後日決まった案へのポジティブなコメントを本人に伝えます。伝えられたらうれしいと思う内容なら、、なんでも良いでしょう。会議で発言して良かったという安心感と満足感が得られます。
定期的に評価基準を充実させる
従業員の給料に反映される評価基準は、頻繁に見直して改良していくべきです。適切な評価をされているかは、誰しも気になる事です。明確な基準がない場合は、透明性を持たせるために、会社全体の共通基準を作りましょう。
「自分の発言が上層部の反感を買い、評価が下がるかもしれない」と思うと発言の意欲が下がってしまうのは無理がありません。したがって、個人に評価を付ける事をなくすのも選択の一つです。大切なことは、全員が納得できる評価方法を探って行くことです。
ポイント制賞与の導入
チームメンバーの間で、報酬を贈りあうポイント制賞与制度は、従業員のモチベーションアップにもつながる良いアイデアです。「この人のおかげで助かった」「この人のここを見習いたい」などメンバーがコメントを送りあい、その数に応じてポイントが付加されます。獲得したポイントは、物品や手当に変わり自分の財産となっていくのです。
お互い賞賛しあう文化は、職場の雰囲気を明るくし開放的な風土に変えてくれる事でしょう。
心理的安全性を作る際の注意点やポイント
「心理的安全性」が高いチームの雰囲気を想像できるようになったでしょうか。
ここでは心理的安全性を作る際にどのようなことを注意すべきか、それぞれのポイントを紹介します。
注意点を確認した上で、リスクを減らしていきましょう。
ぬるま湯に浸かる関係にならないように気を付ける
心理的安全性の高いチームをイメージすると、仲が良くて、風通しの良い和気あいあいとした場面が浮かぶかも知れません。
しかし、力が抜けすぎて馴れ合いになってしまうことには気を付けましょう。チームの仲間は友達ではありません。
上下関係は存在します。常識を忘れた付き合いは、本来の目的を忘れてしまいがちになります。
ぬるま湯につかる関係は推奨できません。
仕事に手を抜かない
「心理的安全性」が確保された職場は、心が安らぐ事でしょう。しかし、ここで仕事に手を抜いてしまう人がいるのも確かなことです。失敗しても怒鳴られず、適当な仕事をしても許されるような職場では責任感がなくなります。
緊張感ばかりの職場はもちろんいけませんが、なさずぎるのも問題なのです。時には、チーム編成などをすることで、環境に変化をつけ気が緩まないようにしましょう。
全員が同じ感情なのか気を配る
職場の心理的安全性が高くなってくると、チームの雰囲気が明るくなってきたことに手ごたえを感じるでしょう。
ここで一旦立ち止まりましょう。
いいチームだと思っているのは、リーダーだけかもしれません。
メンバーの中には、まだ遠慮があり、上司に気を遣い、本当の自分を出し切れていないかも知れないのです。
1人の取り残しがなく、全員が同じポジティブな感情をもっていることをしっかり確認して下さい。
自己満足で終わらず、じっくり時間をかけてとりくんで下さい。
叱れない上司を増やさない
パワハラやモラハラなどの問題を現代社会において、頻繁に耳にすることが多くなってきました。
それを意識するあまり、部下や後輩を叱ることが出来ない上司が増えてきています。
ハラスメントがない事は心理的安定性の確保において重要項目であります。しかし、あまりにも気にしすぎる事は、新たな問題を引き起こすことにつながります。
部下はいつでも、上司の的確な指示を待っています。困るのもまた部下なのです。
問題を起こしたときは、しっかりと叱ることも大切です。さもないと「楽な職場」だと思われてしまいます。
安心して仕事ができる環境とは、「叱るべき時と褒められるべき時」が的確に判断され、実行されることです。
叱らずとも、行動を問いただすコミュニケーション能力の向上を目指して見るのも良いでしょう。ただ叱るだけでなく、部下の心に伝わる技術が求められるのかも知れません。
リーダーが率先して変わる
チームに「心理的安全性」をもたらすのは心理的に柔軟なリーダーです。
今、チームに心理的安全性が足りないと感じたら、まずリーダーでが変わる必要があります。
個々のチーム・個々のメンバーに合わせて、しなやかにチームを変えていく事の出来る「心理的柔軟なリーダーシップ」が求められています。
- 変えられないものを受け入れる柔軟性
- 大切なものへ向かっていく柔軟性
- それらをマインドフルに見分ける柔軟性
その時々に応じて、本質に役立つことができる事がリーダーシップだと考えて下さい。
リーダーが心理的に柔軟であるとチーム全体の学習が大きく促進されます。
チーム全体で取り組む
「リーダーが率先して変わる」必要性を説明しましたが、チーム全体で仕事をするということは簡単な事ではありません。
業績がいい時は発言も活発で、チーム全体の士気も上がります。しかし、失敗が続いたり調子が悪いときはどうでしょう。
特に、立場の高い地位にいる人、リーダーを任されている人などは、「助けを求めてはいけない」「自分1人で解決しなければ」という思いが大きくなるはずです。
またメンバーの行動が変わらない事に怒りを覚え、上手くいかない現実を受け入れ難いと感じるはずです。
チーム全体で可視化する
チームの偏りを防ぐためには、「何が心理的安全性を促進し、何が妨げとなっているのか」をチーム全体で可視化する事です。重要な事は、何が行動を促し、何が行動を減らしているのかを話し合い、チームならではの知見を集めることです。
ここで注意したいことは、「個人を攻撃しても何も解決しない」という事実です。ここでいう個人攻撃とは、個人の内面を責めるようなことを言うことです。
まず、メンバーと「チームにとって大切なことは何か」について話し合い、共通用語として認識する事で個人攻撃は防ぐことが出来ます。そして、リーダー自身が、「自分自身も間違うし、それを認めても良い」という自己開示をしていくことです。
対人関係のリスクを減らし積極的な行動を促す
職場の人間関係は複雑である場合があり、対人関係においてポジションの取り合いや成果がどちらの方が良いかなど心理的安全性を高める際の壁になることもあります。
対人関係のリスクとは次の通りです。
- 無知・無能だと思われたくない
- 邪魔だと思われたくない
- 否定的だと思われたくない
このようなリスクに日々怯えてる「心理的非安全な職場」においては、いつの間にか必要な行動がとれなくなってしまい、生産的で良い仕事をするという心理的安全なチームの概念を阻害します。
「良かれと思って行動しても、罰を受けるかもしれない」というリスクの事です。
それを変えるためには、目標やゴールを明確にし、課題について率直に話しあう場面を設けることです。
そして、決めたことを試し、トラブルには助け合い、個々の強みや持ち味を活かしながら進んで行くことです。
個々の安心感こそが、積極的な行動を促す事につながるのです。それこそが、「心理的安全性」を達成するためにリーダーが意識していかなければならない事です。
まとめ
今回は心理的安全性の重要性や高める方法、注意点について紹介しました。
経営者や部下、上司、マネージャーなど1人ひとり立場も変わるため、思うことは色々あると思います。
人生において、働く時間というのは大きな時間を占めます。その分、ストレスを抱えやすい時間でもあるため、心理的安全性は非常に重要と言えるでしょう。
また、職場の悩みについて1人で悩んで抱え込まず話すことも大切です。
オンラインカウンセリング「Kimochi」では、仕事における悩みや人間関係の悩みを専門とする心の専門家が登録しています。
1人で抱え込みすぎて、ストレスで限界が来る前に専門家に相談することをオススメします。