【医師監修】PMSで情緒不安定に?知っておきたい症状とPMDDとの違い、セルフケア

「もうすぐ生理だから仕方ない」と、イライラや気分の落ち込みを一人で抱え込んでいませんか?
仕事や人間関係に影響が出るほど情緒が不安定になったり、涙もろくなったりするというのは、決してあなたのせいではありません。

こうした心と体の変化は「PMS(月経前症候群)」と呼ばれ、女性の約7〜8割が何らかの症状を感じているといわれています。
とはいえ、周囲にはなかなか理解されにくく、「甘え」「気の持ちよう」と片づけられてしまうことも少なくありません。

この記事では、PMSの仕組みやPMDDとの違い、情緒不安定になったときの対処法、そして日常生活でできるセルフケアまで、医学的な視点から丁寧に解説します。
まずは、自分の心と体の状態を知ることから始めましょう。適切なケアを知れば、毎月のつらさも少しずつ軽くなっていきます。

この記事の著者

勝どきウィメンズクリニック 院長

松葉 悠子 先生

まつば ゆうこ

プロフィール

お茶の水女子大付属高から金沢大学医学部に入学。 卒業後、東京大学医学部付属病院、日立製作所日立総合病院、豊島病院、愛育病院などの勤務を経て、2015年「勝どきウィメンズクリニック」を開院。

<資格>
日本産婦人科専門医
日本産科婦人科遺伝診療学会認定
日本思春期学会性教育認定講師

<所属学会>
日本産科婦人科学会
日本超音波医学会
日本周産期・新生児医学会
日本女性医学学会
日本生殖医学会など

PMS(月経前症候群)とは?PMSの定義と原因

PMS(月経前症候群)は、月経前に心と体にさまざまな不調が現れる症状の総称です。月経周期のうち、排卵後から月経開始までの期間(黄体期)に症状が現れ、月経が始まるとともに軽快・消失するのが特徴です。

主な原因は、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の急激な変動です。このホルモンバランスの変化が、脳内の神経伝達物質、特にセロトニンの働きに影響を与えることで、感情や自律神経の乱れが生じると考えられています。

生理前にイライラしておかしくなるのはなぜ?

「普段はそんなこと思わないのに、些細なことでイライラしてしまう」というのは、ホルモンの影響でセロトニンの分泌や働きが低下することが大きな要因です。

セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、心の安定に深く関わっています。この働きが一時的に低下すると、気分の落ち込みや怒りっぽさ、不安感といった情緒の波が現れやすくなるのです。

主な症状一覧(心と身体)

PMSの症状は人によって異なり、心身にさまざまな不調が現れるのが特徴です。以下に代表的な症状を挙げます。

精神的な症状

  • 理由のないイライラや怒り
  • 抑うつ気分、悲しみや不安
  • 集中力の低下、物忘れ
  • 日中の強い眠気や倦怠感

身体的な症状

  • 乳房の張りや痛み
  • 下腹部や腰の痛み
  • むくみ(特に手足や顔)
  • 頭痛、肩こり
  • 食欲増加(甘いものや炭水化物への欲求)

このような症状が毎月のように繰り返される場合は、PMSの可能性を考える必要があります。

PMSが一番ひどい時期はいつ?

PMSの症状がもっとも強く現れるのは、月経前の3〜10日間とされています。これは、排卵後に分泌されるプロゲステロンがピークを迎えた後、急激に減少するタイミングと重なります。

多くの場合、月経が始まると同時にホルモンバランスがリセットされ、症状は自然と軽くなるのが特徴です。

ただし、症状の程度や出現期間には個人差があり、日常生活に支障をきたすレベルになる場合は、「PMDD(月経前不快気分障害)」の可能性もあります。

PMSがひどい人の特徴は?

PMS(月経前症候群)の症状はすべての女性に同じように現れるわけではなく、体質や生活環境、心の状態によってその重さや頻度に違いがあります。

ここでは、PMSが特にひどくなりやすい人の特徴について、医学的観点から解説します。

ストレスや生活リズムの乱れがある人

日々のストレスは、女性ホルモンのバランスを乱す大きな要因です。

強いストレス状態が続くと、自律神経のバランスが崩れ、ホルモンの変動に対する身体の適応力が低下します。

また、不規則な生活(夜更かしや過労、食事の欠如)もホルモン分泌のリズムを乱し、PMSの症状を悪化させることがあります。

過去にうつ病や不安障害の既往がある人

精神的な既往歴がある場合、月経前の感情の変動が強く出やすい傾向があります。

うつ病や不安障害を経験している人は、セロトニン系の神経伝達が繊細であることが多く、ホルモン変化の影響を受けやすいとされています。

こうした背景があり、メンタル不調が強い場合、PMDD(月経前不快気分障害)と呼ばれることもあります。

睡眠不足や栄養バランスの乱れがある人

良質な睡眠は、ホルモンの安定に欠かせない要素です。睡眠不足はストレスホルモン(コルチゾール)を増加させ、情緒不安定や過敏な反応を引き起こす要因になります。

また、栄養不足(特にビタミンB群、マグネシウム、カルシウム)は、神経伝達物質の合成に影響し、心の不調を招くことがあります。バランスのよい食事と十分な休息が、PMSの予防と緩和には重要です。

家族歴・遺伝子による影響がある人

母親や姉妹にPMSが重い人がいる場合、自身も強い症状が出やすい傾向があります。

これは、ホルモンに対する感受性や代謝の仕組みが遺伝的に似ている可能性があるためと考えられています。

また、セロトニンやGABAといった神経伝達物質の受容体に関わる遺伝的要因も関連していることがわかってきています。

性格傾向との関連

研究によっては、完璧主義、自己評価の低さ、感受性の強さといった性格特性が、PMSの重症度と関連していると報告されています。

物事を抱え込みやすい人や、感情を外に出しにくい人は、PMS期に感情のコントロールが難しくなることがあります。

こうした性格傾向を否定するのではなく、自分の特徴を理解し、無理をしない対処法を知ることが大切です。

PMDD(月経前不快気分障害)との違い

PMSと似たような時期に起こる不調のなかには、より深刻な精神症状を伴う「PMDD(月経前不快気分障害)」という疾患があります。

「毎月、生理前になると感情が抑えきれなくなる」「仕事や人間関係が続けられないほどつらい」といったケースでは、PMSではなくPMDDの可能性があるかもしれません。

ここでは、PMDDの特徴や診断基準、PMSとの違いについてわかりやすく解説します。症状に心当たりがある方は、自己判断せず早めに専門機関に相談することが大切です。

PMDDの特徴と診断基準

PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder/月経前不快気分障害)は、PMSのなかでも特に精神的な症状が重く、日常生活に大きな支障をきたす疾患です。

PMSでも気分の浮き沈みは見られますが、PMDDではそれが極端に強く、怒り・抑うつ・不安感がコントロールできないレベルにまで達することがあります。

例えば以下のようなケースが典型的です。

  • 家族やパートナーに対して衝動的に怒りをぶつけてしまう
  • 不安感が強くなり、外出や人との会話が困難になる
  • 涙が止まらず、自分を責め続けてしまう
  • 生きている意味がわからなくなるほどの落ち込みが出る

これらの症状は月経前に毎月繰り返され、月経が始まると自然に軽減するのが特徴です。

PMDDは、米国精神医学会が定めるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)において正式に定義されています。診断には、以下のような要件が必要です。

  • 月経前に抑うつ気分、怒り、緊張、不安のうち少なくとも1つがある
  • 日常生活(仕事・学校・人間関係)に明確な支障をきたしている
  • 月経が始まると症状が軽快または消失する
  • 他の精神疾患(うつ病・不安障害など)だけでは説明できない
  • 連続して2周期以上にわたって症状が記録されていること

このように、PMSよりも明確かつ重度な精神症状が中心である点が、PMDDの大きな特徴です。

PMSとの違いの分かりやすい比較表

以下の表は、PMSとPMDDの違いを整理したものです。

項目 PMS PMDD
主な症状 軽~中等度の心身の不調 強い抑うつ・怒り・情緒不安定
日常生活 続けられることが多い 仕事や家庭生活が困難になることもある
診断方法 問診やセルフチェックによる判断 DSM-5に基づく診断+医師の評価が必要

記録(感情・体調の変化)を2〜3周期つけてみることが診断への第一歩になります。

PMSによる情緒不安定やイライラしている時に止める方法

PMSの時期に感情のコントロールが難しくなるのは、本人の意思や性格の問題ではなく、ホルモンの影響によるものです。

つい人にきつく当たってしまったり、ささいなことで涙が出てきたりする時こそ、「なぜこうなるのか」を理解し、心の負担を減らす工夫が大切です。

ここでは、PMSによるイライラや情緒不安定を感じたときの、すぐにできる対処法をご紹介します。

自分を責めず、「ホルモンの波のせい」と理解する

「また感情をぶつけてしまった」「こんなことで泣くなんておかしい」と自分を責めてしまいがちですが、まずはその考えを手放してみてください。

生理前は、エストロゲンやプロゲステロンの急激な変動により、脳内のセロトニン(精神を安定させる神経伝達物質)の働きが低下します。

これは、まさに“ホルモンの波”によって引き起こされる自然な反応です。

「これはホルモンのせい」と一歩引いた視点で見ることができれば、自分を責めずに感情を受け入れる余裕が生まれます。

怒りのピークには深呼吸やその場を離れる

イライラや怒りが強くなったときには、その場から一度離れることがとても効果的です。

状況を無理にコントロールしようとするよりも、意識的に深呼吸を数回行う、別の部屋に移動する、少し散歩をするなど、「刺激から距離を取る」行動が、感情の爆発を防ぐ手助けになります。

また、あらかじめ「イライラしやすい日は人と距離を取る」「無理な予定は入れない」といった対策を取っておくことも有効です。

イライラを「記録」して、周期的な傾向を把握する

感情の波に振り回されないためには、自分の感情と体調を見える化することが重要です。

「いつから」「どんなふうに」「何に対して」イライラしやすいのかを、簡単にでも記録しておくと、次の周期で心の準備がしやすくなります。

紙の手帳でも、PMS管理アプリでも構いません。自分のリズムを知ることは、セルフケアの第一歩です。

客観的に見直すことで、「この時期は感情が揺れやすいから、今日は少しペースを落とそう」といった前向きな選択ができるようになります。

PMSや生理の時にできるセルフケア

PMSや生理中の心と体の不調は、日々の生活習慣やちょっとした工夫によって軽減できることがあります。薬だけに頼らず、身体にやさしいセルフケアを取り入れることで、毎月の過ごし方が変わるかもしれません。

ここでは、無理なく始められるセルフケアを3つの視点からご紹介します。

生活習慣の見直し

ホルモンバランスが大きく変動する時期だからこそ、心身を整える基本習慣がとても大切です。

  • 睡眠:7時間以上、一定のリズムで
    十分な睡眠はホルモン調整の土台になります。寝る時間・起きる時間を一定にし、朝に光を浴びて体内時計をリセットすることも効果的です。
  • 食事:血糖値を安定させるバランス重視
    精神的な不安定さは、血糖値の急激な変動からも引き起こされます。たんぱく質や食物繊維を含む食事で血糖値の乱高下を防ぎましょう。
  • 運動:軽いウォーキングやストレッチでセロトニン分泌促進
    適度な運動は、「幸せホルモン」セロトニンの分泌を促進し、気分を安定させる効果があります。無理のない範囲で、毎日10〜20分のウォーキングやヨガなどを習慣にするとよいでしょう。
  • 控えるべきもの:カフェイン・アルコール・高糖質食品
    これらは一時的に気分を上げるものの、後で落ち込みやすくなる要因にもなります。特に生理前・生理中は摂取を控えるよう意識しましょう。

心を落ち着ける方法

ホルモンの影響で感情が揺れやすい時期には、自分の心を見つめ、整える時間を意識的に取ることが大切です。

マインドフルネス瞑想や呼吸法

不安や怒りに飲まれそうなときは、呼吸に意識を向けてみましょう。1日5分のマインドフルネス瞑想や腹式呼吸で、自律神経が安定しやすくなります。

気持ちを言語化する日記やアプリ

モヤモヤを頭の中に溜め込まず、言葉として書き出すことで心が軽くなることがあります。PMS記録アプリなども活用し、周期的な感情のパターンを把握しましょう。

相談相手をつくる(家族、パートナー、カウンセラー)

一人で抱え込まず、「つらい」と話せる相手がいるだけで気持ちは変わります。信頼できる人に感情を共有することは、セルフケアの一つです。

市販薬・漢方などの活用

症状がつらいときには、市販薬や漢方を適切に取り入れることも有効です。

PMS向け市販薬(鎮痛薬、ビタミンB6含有製剤など)

イライラや情緒不安定に対しては、ビタミンB6を含むサプリメントやPMS専用の市販薬が役立つことがあります。チェストベリーやγ-トコフェロール、漢方などの成分が使われていたりします。
身体の痛みに対しては、解熱鎮痛薬(イブプロフェンなど)が効果的です。

漢方薬:加味逍遙散、桂枝茯苓丸など体質に合うものを選ぶこと

PMSに対する漢方治療では、加味逍遙散(かみしょうようさん)や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)がよく使われます。体質や症状の出方によって合う薬が異なるため、漢方薬局や医療機関での相談をおすすめします。

医師や薬剤師と相談しながら選ぶのが安心

自己判断での薬選びが不安な場合は、婦人科や薬剤師に相談しながら、安心できる方法を見つけることが大切です。

PMSの受診すべきタイミングはいつ?

PMSや生理前の不調は、「よくあることだから」と我慢してしまいがちです。

しかし、日常生活に支障をきたすほどの症状が続いている場合、それは単なる“生理的な不快感”の域を超えているかもしれません。

ここでは、医療機関の受診を検討すべきタイミングについて、具体的にご紹介します。

感情が抑えられず、自分や他人を傷つけそうになるとき

「怒りがコントロールできない」「衝動的に暴言や自己否定的な言葉を口にしてしまう」といった症状がある場合、ホルモンの影響だけでなく、精神的なサポートが必要な状態に近づいている可能性があります。

特に、自傷行為や他者への攻撃的な言動が出てしまうときは、早めの専門相談が必要です。

生活や仕事に支障が出ている

「仕事に集中できない」「家族やパートナーとの関係がうまくいかない」など、PMSによる不調が日常生活に影響している場合は、医師による評価や治療を受ける価値があります。

我慢し続けることで、うつ状態や不安障害などの二次的な精神的負担を引き起こすリスクもあるため、早めの対処が重要です。

生理後も気分が戻らない(PMEの可能性)

PMSでは、生理が始まるとともに心身の不調が軽くなるのが一般的です。

しかし、生理が終わっても気分の落ち込みやイライラが続くようであれば、他の精神疾患が関係しているPME(月経前増悪)の可能性があります。

この場合は、婦人科や心療内科での診断・治療が必要になることがあります。

つらさが月ごとに増している場合は専門医へ

「前より症状が重くなっている気がする」「だんだん我慢できなくなってきた」と感じている場合は、決して見過ごしてはいけません。

症状の変化や悪化は、身体や心が限界に近づいているサインです。

医師のサポートを受けることで、低用量ピルや漢方、必要に応じたカウンセリングなど、多様な選択肢が開かれます。

「こんなことで病院に行っていいのかな?」と迷わず、一度相談してみることが、あなた自身を守る大切な一歩になります。

おわりに:心と体をいたわる選択を

PMSによる心や体の不調は、誰にでも起こりうる“体からのサイン”です。決して「気のせい」や「わがまま」ではありません。

つらいときは無理をせず、生活の中でできるセルフケアを取り入れながら、必要に応じて医師や専門家の力を借りることも大切です。

「しんどい」と感じたら、それは頑張りすぎている証かもしれません。

症状に振り回される自分を責めるのではなく、「今はそういう時期なんだ」とやさしく認めてあげることが、回復への第一歩です。

心と体をいたわりながら、自分らしく過ごせる日々を少しずつ取り戻していきましょう。